目からうろこのSRS(最近の感動的なこと)オリジナルは2005年3月12日  

Shock Response Spectrum(SRS)。

スペクトルと言えば一般にはフーリエ変換。 理系の大学生ならば、数学や物理の講義で必ず習う項目ですね。 でも、SRSを学校で習ったと言う人は少ないのではないでしょうか。 私も学生時代には習っていません。 実際、メカニカルエンジニアとして働いて18年になりますが、数年前までその存在さえ知りませんでした。 で、SRSって何かと言えば、衝撃による加速度を評価する数学的(物理的)手法です。 でも、その導出手法はフーリエ変換とは全く違います。 フーリエ変換は時系列波形を周波数軸上への変換する手法であり、逆フーリエ変換をすれば元の時系列波形に戻るわけで、フーリエ変換の前後では元波形の情報を基本的には失わいません。

で、SRSですが、知らない人に説明しにくいのですが、簡単に言えば、解析しようとする衝撃加速度をそのままの解析するのではなくて、解析しようとする衝撃加速度波形がある機械的システムに印加されたら、そのシステムの挙動はどうなるかを知ろうというものです。 よって、インプットの衝撃加速度に対しては、そのSRSは一義的に求まりますが、SRSから元の衝撃加速度波形をもとめることはできません。 これは、フーリエ変換とは根本的に違った解析手法と言うことです。

SRSの数学的定義は、解析しようとする衝撃加速度が単振動列(固有振動数が異なる単振動バネ−マス系が並んだ仮想的システム、例えば板の上に、固有振動数が10Hzから5kHzまでのバネ−マス系が並んだイメージです)に印加された場合、個々の単振動系のマスに発生する最大加速度の大きさを求めることです。 大学までの力学で考えれば、単振動系に任意の有限時間の加速度を印加し、そのときマスに発生する加速度応答を計算して、その最大値を求めるというこで、単振動系が1つなら、ラプラス変換を使えば求まる訳です。 で、その延長で考えれば、単振動列になったとして、一つ一つの系の加速度応答を求めていけば、数学的には答えは得られます。 ただし、ラプラス変換だけを数学ツールとして使用すると、計算量が膨大且つ煩雑で実用には耐えません。

そんな訳で、私もSRSの物理的に意味する所は定性的に理解できても、数学的に効率よく、つまりは、コンピューターで計算しやすくする方法が分からなくて、仕事でSRS解析をするときは、既存のプログラムをブラックボックスとして使ってました。 実際、日本語で書かれたSRSに関する本は少ないし、あっても、その定義のみの記載で、実際に計算の要領まで書いてはくれてないの実情です。 そんな訳で、私も最近まで、学校で習った数学の知識のみで考えてたわけです。

でも、仕事でSRS解析のプログラムを書く必要に迫られて、色々と勉強してみると、ちょっと数学的扱いを追加すれば、簡単に単振動列の加速度応答が求まることが分かりました。

途中の説明を大幅に省くと、単振動系のインパルス応答の解を求めて、その結果にZ変換(フーリエ変換だとか、ラプラス変換だとか似たような言葉が出てきてごめんなさい)を適用し、印加衝撃加速度をインパルス応答列として取扱うということです。

この方法は、単振動系を力学的(つまり微分方程式のままと言う意味)に取扱うのでなく、電気屋的な数学手法で取扱うことを意味します。 Z変換によるインパルス応答列の解析は、結局の所、単振動系を数学的にはデジタルフィルタとして扱うことになります。 元の衝撃波形をインプット、単振動系のマスの加速度応答をアウトプットとすると、その間にある単振動系を一種のフィルタとして見なして、インプットとアウトプット間の伝達関数=つまりフィルタ特性 を決めると言うことです。

フィルタの理論では、フィルタ特性を表現するフィルタ係数を求めれば、フィルタの伝達関数が決まって、容易にインプットの波形をアウトプットの波形に変換できます。 この方法を使えば、インプット(衝撃加速度波形)にデジタルフィルタ演算を適用するだけで、アウトプット(マスの応答加速度)が求まるので、力学的にラプラス変換で微分方程式を解く場合の逆ラプラス変換で必要な複素積分操作をする苦労が不要になって、効率の良い計算が可能になります。 さらに、単振動系を数学的にフィルタとして扱うことで、系固有のパラメータを固定したまま、任意の加速度波形に対して適用することができますので、実験で測った衝撃加速度波形を解析するのが楽チンです。  これは、普通の信号処理で、入力信号にデジタルローパスフィルタをかけて高周波ノイズを除去するの全く同じ手法です。

知ってしまえば、『あ、なるほど、それで言い訳ね』となりますが、機械屋は(私だけかもしれないけど)、電気屋さん達には常識のZ変換だとかフィルタの理論とかに疎いので、単振動系というとなじみのラプラス変換とかで微分方程式をダイレクトに解きたくなるのですね。 実際、工学部の機械工学科では機械力学(=ほとんど振動運動の力学)を習いますが、機械力学の教科書は純力学的な扱いが書かれていることがほとんどですし、講義でも単振動から減衰・強制振動、多自由度系振動、非線形振動の運動方程式を解くことが中心だから、どうしても、単振動とか言うと、微分方程式を解くと言うイメージが沸いてしまうんですね。

さて、SRSを計算するのにZ変換やフィルタ理論を使うと、2次の再帰型のフィルタ(厳密な言い方ではないけど、2次のIIRデジタルフィルタ)になって、固有振動が異なる単振動系ごとにフィルタ係数が決まっていきます。 ここまでくれば、後はコンピュータに力ずくでどうにでもなります。

私はMATLABユーザーですが、MATLABだとフィルタ係数さえ決まっていればMATLABの関数を使って、魔法のように簡単にフィルタ演算ができますから、赤子の手をひねるようなもので、あんなに、悩んでいたSRSのアルゴリズムがあっけないほど簡単に書けてしまいます。

私はこれを、アメリカのあるホームページにあった資料で知りました。 残念ながら、日本語のサイトでは、こんな解説をしているところは見つけられていません。 まー、SRSがポピュラーに使用されるのは宇宙産業や防衛産業なので、民生品産業が強い日本では利用するエンジニアが限られていると言うのが実情で、国内産業での実用性を考慮してカリキュラムを作っている大学で習わないと言うのも致し方ないのでしょうか。 でも、アメリカのエンジニアリングの基盤ってやっぱり凄いなと思ったりもします。

しかし、年齢がいくつになっても、エレガントな解説で新しい知識
を得るって言うのは感動するものですね。  仕事とは言いながら、久しぶりに感動を味わいました。

<2008/5/9追記>

SRS解析を詳しく書いてくれているURLをリンクしました。
リンク先の許可はもらってませんが。

vibraion.com

<2008/6/25追記>
この記事をお読みいただいた方へ。
もしよろしければ、コメントなど残していただけますと、今後の励みになります。どんな理由でSRSと関わっているかなども簡単に書いていただけると参考になります。 よろしくお願いします。

アクセス頻度が高いので、更新日をアップデートしました。

<2012/8/2追記>
最初の投稿から7年を経た今での、ほぼ毎日のようにアクセスのある記事なので、投稿時刻をアップデートしました。本文で、エンジニアになって18年となっていますが、その後の7年で25年となりました。リンク先のSRSの記事は今でも残っています。SRS解析を必要とする方には、とても価値のあるリンク先だろうと思います。

 

<2016/1/19 追記>

オリジナルの投稿から10年以上経ちましたが、未だアクセスが少なくないので、投稿日を設定しなおしました。記事は変更ありません。

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“目からうろこのSRS(最近の感動的なこと)オリジナルは2005年3月12日  ” への 8 件のフィードバック

  1. 最近SRSの問い合わせが
    私は日本でSRS解析の出来るFFTアナライザを販売していますが、最近SRSに関する問い合わせが増えてきました。10年も前からあったんですがその当時は何なのかさっぱり分かりませんでした。もちろん買う人もいませんし、どう役に立つのかも分かりませんでした。今のFFTアナライザは強力なDSPを搭載しているので、狭帯域のデジタルフィルタも同時に何個も処理しますので、あっと言う間です。
    私はSRSのユーザではありませんが、使用される方は携帯電話の落下衝撃やHDDの衝撃解析にSRSを使うようです。昔と違いモバイル的な製品が多いのでこうした解析が必要とされているのかもしれませんね。

  2. コメントありがとうございます
    show wayさん。
    コメントありがとうございます。

    この記事は4年も前の記事ですが、show wayさんが初コメントです。 貧相なブログなもので.....

    ところで、最近の計測器は本当にすごいですよね。 ハードも進歩しましたが、ソフトの機能が豊富で、とても使いきれません。

    記事にも書きましたが、SRS解析は機械系と電気系の両方の知識を必要とするし、理工系の大学で必ずしも教える内容でもないため、使っている人は限られるかと思います。

    モバイル機器用でという事であれば、落下試験を定量化するために使うんでしょうね。  SRSで検索すると、確かにモバイル機器向けと思われる記事を見つけることがあります。

    貧相なブログですが、またお越し頂ければ幸いです。 よろしくどうぞ。

  3. すばらしい!
    凄い役に立ちます.
    授業で習ったのは覚えているのですが,そのときは理解してませんでした.リンク先の情報も含めてありがとうございます.

  4. コメントありがとうございます
    こー さん

    コメントありがとうございます。

    コメントを頂くと、ブログに記事を書いてる励みになります。

    どうぞ、これを機会に、当ブログをご贔屓お願いします。

  5. お礼
    仕事や地震の方面で、SRSが非常に気になっていたところ、貴ブログ記事にたどり着きました。

    先輩からの解説や、SRSダイアグラムの縦軸・横軸の単位から意味合いを”なんとなく”は理解していたのですが、こちらの記事を読むことで更に理解が深まりました。

    ありがとうございます!!

    ちなみに、SRSとは少し異なりますが、似た概念で3/11の地震動を表現した図が東大地震研のサイトにありました。(既にご存知でしたらすみません。)
    http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/eqvolc/201103_tohoku/#lngprd

  6. コメありがとうございます
    nacaさん

    コメント有難うございます。

    レスが遅くなりました。お許し下さい。

    この記事はオリジナルが2005年3月ですから、ずいぶんと前のきじですが、お役立てたなら、嬉しい限りです。

    衝撃解析としてのSRSは機械屋が使う道具ですが、そのためには、力学、員パルス応答、Z変換、フィルタ理論、プログラミング等々電気屋の知識が必要なので、普通の機械屋の知識だけでは、使いきれない難しさがあります。 

    ソフトウェアをブラックボックスとして使うなら問題はありませんが、中身を知りたくなるのは人情です。 でも、私の知る限り日本語での解説は少ないですよね。

    貧相なブログですが、これを機会にご贔屓頂ければ嬉しい次第です。

    どうぞよろしくお願いします。

  7. 懐かしいSRS解析
    勤務先で定年を迎え、会社での個人史的なものを執筆しているときに、かつてSRS解析が宇宙航空分野の衝撃規格試験に採用され(1983年)、その後、輸送物t流計測でSRR解析がPC化されたころに、熱中していろいろと取り組んでいました。最近も、あるソフトウエアのSRS解析アルゴリズムに間違いがあり、これを検証するためにエクセルをつかって、修正されたプログラムのバリデーションを行ったりしました。そういえば、SRS解析の始まりは、確か1930年代だっととの記憶があり、Webでいろいろ調べているときに、貴サイトを見つけ真っした。
    まだ、Webページなど少なかったころに、その時の初歩的な知識で、個人のホームページを立ち上げて(記載のURL)、いまだに残骸がそのまま残っていたので、驚いています。SRS解析に熱中されていた方が、おられてとてもうれしい気持ちになりました。

  8. Re:懐かしいSRS解析
    mima様

    稚拙な記事をお読み頂い上に、コメントも頂きありがとうございます。

    ブログきじのタイトルにもありますように、SRSの記事は、10年以上前に書いたものですが、お困りになっていらっしゃる方が多いのか、今でも現役の記事として、読まれているようです。

    私もは宇宙飛翔体に関係した実験を担当していた時に、SRSの勉強を少しだけして、記事を書きました。

    その後、異動のため、直接はSRSを使ってはおりませんが、その際勉強したデジタルフィルタの知識は、今でも役に立っております。

    悲しいかな、機械力学、デジタルフィルタ、そして、コンピュータプログラミングと多様な知識が必要ですが、ブログ記事タイトル通り、SRSアルゴリズムは、目からうろこ、とても美しいと思っております。

    最後に、コメント頂いた方皆様にお願いしておりますが、稚拙なブログですが今回を機会に、時々でも、お立ち寄り頂けましたら幸いです。

    よろしくお願い致します。

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